改正貸金業法で公正証書が変わった!
皆さんは公正証書ってどんなものかご存知ですか。
漫画の取り立てシーンなどでは「こっちは公正証書もまいてるんやで!」などと、いかにもおどろおどろしい発言が飛び出すことがあるので、なんだかよくわからないけど、「とにかく恐ろしいもの」という認識の人も多いのではないでしょうか。
あまり知られていないのですが、実は2010年6月に完全施行された、改正貸金業法ではこの「公正証書」の取扱いについても改定されています。
ここでは、知っているようでよく知らない「公正証書」についてわかりやすく嚙み砕いて解説していきたいと思います。
公正証書とはなんぞや?
「公正証書」とは、ざっくり言えば、「公証人役場で作成した文章や契約書」のことです。
要するに契約当事者同士だけで契約締結するのではなく、「公証人役場」で「公証人」立会いのもとで締結した契約書面ということです。
そして公正証書の中でも、「延滞した時は直ぐに差押えする」という文言が記載された公正証書のことを特に「特定公正証書」といいます。
消費者金融会社との間で公正証書を作成する場合のほとんどは「特定公正証書」です。
また、「公証人」や「公証人役場」というワードも聞きなれない人もいると思いますが、公証人とは、裁判官、検察官、弁護士など、法務の実務に、原則30年以上携わってきた人の中から法務大臣が任命する公務員で、法律のプロ中のプロの人達です。
そんなプロが立ち会って契約締結するわけですから、その効力は絶大で、公正証書はなんと裁判の判決と同じ効力があるのです。
また公証人役場は、裁判官と検察官の「天下り先?」とも言われており、現役裁判官の先輩達が多数在籍しています。
公正証書とは、そんな役所で作成した契約書です。
そのため、一旦、作成してしまったら、内容が不服だとしても、そうそう簡単にひっくり返せるようなものではないのです。
(※もちろん詐欺的な手段で取得された公正証書は無効ですが)
このように公正証書はかなり強力な効力を持っているにもかかわらず、かつては、かなり簡単に作成することができました。
お客の「印鑑証明書」と、公正証書の作成について消費者金融側の社員をお客の代理人として委任するという「委任状」さえ用意すれば、消費者金融の社員2名(1名は消費者金融の代理人として、もう1名はお客の代理人として)で公証人役場に出向き、お客が不在の中でも公正証書を作成することができてしまっていたのです。
そのため昔の消費者金融では、高額貸付をする際の債権保全の常套手段としてよく公正証書が使用されていました。
本来、判決をとるまでの道のりは長い!
先ほど、「公正証書は判決と同じ効力がある」と説明しましたが、これは消費者金融にとってはかなり有利なことです。
通常、消費者金融会社が延滞などの債務不履行で強制執行(財産の差押え)をする場合は、
①裁判所に貸金訴訟申立
↓
②裁判所から債務者(お客)へ訴状送達
↓
③口頭弁論
↓
④判決(債務名義)確定
↓
⑤強制執行申立
↓
⑥強制執行
とかなり長い道のりを経ることになります。
しかも②の訴状が、不在や受け取り拒否などで送達できない場合は、さらに時間を要することとなります。
しかし、最初から公正証書があれば、これらの手順を全てすっ飛ばして、いきなり強制執行(財産の差押え)を申立てすることが可能になるというわけです。
このことを利用して、一部の悪質な消費者金融は、債務者にロクな説明もせずに、自社の社員を債務者の代理人として委任状を取って、自社に都合のいい内容で公正証書の作成をしていました。
その結果、出来上がる公正証書は借主にとって非常に不利益なものとなり、予期せぬトラブルを招くことも多く見受けられていました。
いまどきの公正証書は
しかし現在の貸金業法では、この「特定公正証書」の作成に厳しく制限が設けられるようになりました。
具体的には以下のようになっています。
制限その1
消費者金融は、特定公正証書の作成に関して債務者から「代理人に委託することを証する委任状」を取得してはならなくなりました。
制限その2
消費者金融は、特定公正証書の作成に関して債務者から代理人に委託する場合には、代理人の選任に関し推薦その他これに類する関与をしてはならないことになりました。
これらの制限は要するに、消費者金融の息のかかった者を、お客の代理人とは認めないということです。
その結果、現在、特定公正証書を作成する方法は、
- 消費者金融側とお客側がそろって公証人役場に出向く。
- お客自らが選任した、消費者金融の息のかかっていない代理人を通じて作成を嘱託する。
のいずれかになり、お客が予期せぬ不利益な特定公正証書を作成されるという心配は無くなりました。
また、手間がかかり過ぎるということもあり、現在、消費者金融の現場では、「特定公正証書」を作成することはほとんどなくなってしまいました。
しかし、「特定公正証書」が、かなり強い効力をもった契約書であることは、いまでも変わりはありません。
もし、特定公正証書の取り交わしをするのであれば、十分な注意を払うようにして下さい。