「官報」を利用したイマドキの自己破産審査を解説
みなさんは「官報(カンポウ)」というものをご存知でしょうか。
官報とは、国の機関紙で、法令の規定に基づく各種公告や、破産・相続等の裁判内容が掲載されたものです。
中小消費者金融の審査では、自己破産や個人再生などの情報をチェックするためこの官報を利用することが頻繁にあります。
否、官報情報は、いまや中小消費者金融の自己破産審査には欠かせないものとなっています。
ここでは官報情報を利用した審査について詳しく解説していきます。
Contents
なぜ官報情報チェックが必要なのか
中小消費者金融が官報情報をチェックする目的は大まかに下記2点です。
①確実に免責確定しているかチェックするため
イマドキの中小消費者金融では、過去に自己破産をした方も審査対象としている業者がほとんどですが、これは、「免責確定」していることが条件です。
免責確定していなければ、返済義務は残ったままだからです。
そのため、中小消費者金融では、自己破産者の審査をする際には、官報情報をチェックして、確実に免責確定しているかどうか調査しています。
②信用情報から破産情報が抹消されている場合の裏付けとなる
申込者が自己破産をしていると自己申告していても、信用情報から破産事故情報が抹消され、延滞事故情報だけが残ったままになっていることがあります。
(参考記事:JICCのブラック情報を徹底解説)
この場合、本当に自己破産していれば審査対象となりますが、単なる長期延滞者であれば、審査対象外になります。
官報情報をチェックすれば、本当に自己破産しているかどうかがわかります。
インターネット官報の登場が審査を変えた!
このように、いまでは官報情報は、中小消費者金融の審査に欠かせないものとなっていますが、これは、「インターネット官報」の登場がきっかけです。
かつての官報は新聞のような紙面のものでした。
そのため、その情報をデータベース化して調査することは非常に困難なことでした。
そのため昔は、申込者や取引中の顧客が、自己破産や個人再生をしているかを官報でチェックしている消費者金融はほとんどありませんでした。
しかし、現在は、官報情報がインターネットで検索できるようになっているので、紙媒体のころに比べて格段に調査しやすくなっており、多くの消費者金融がこのサービスを利用するようになりました。
インターネットでの官報検索は独立行政法人国立印刷局の「官報情報検索サービス」で可能です。
こちらのサービスでは、昭和22年5月3日から直近までの官報情報が検索可能なので、自己破産や個人再生した人をほぼ全て網羅していることになります。
このサービスができてからは、中小消費者金融にとって官報調査は、かなり身近になりました。
インターネット官報の弱点
但し、この便利な「官報情報検索サービス」も弱点があります。
それは、漢字氏名と住所でしか検索が出来ないので、本人を特定することが非常に困難な場合があるということです。
そもそも官報自体に、「カナ氏名」と「生年月日」が掲載されていないので、これはどうしようもありません。
本人とヒアリングしながら確認をすれば検索精度は上がると思いますが、ありがちな漢字氏名の人などは、同姓同名の漢字氏名が複数ヒットするので、完全に絞り切れない場合も多くあります。
「破産者マップ」が大騒動に!
このように「官報」は、かつて紙媒体だった情報をネット情報で提供することで、非常に便利で利用しやすいものになりました。
ただ、その便利さが、そのままデメリットとなってしまうこともあります。
そのことを象徴するような事件が、2019年年明けごろにありました。
いわゆる「破産者マップ事件」です。
この「破産者マップ」とは、2019年年明けごろ、突如、インターネット上に出現したサイトで、官報の自己破産者の情報とグーグルマップをリンクさせ、自己破産者の住所、氏名、裁判所名、事件番号が、地図上に表示されるという内容のものでした。
このサイトには、削除要請も可能としていましたが、削除するためには、削除対象者の氏名、生年月日、削除理由、破産後の生活状況、身分証明書の提出など、かなりの情報を運営者に提供する内容になっていたことも問題視されていました。
実際、この「破産者マップ」を使って、自分の近所に自己破産者が住んでいないか調べたり、逆に調べられたりした方も、多くいたようです。
もともと官報は誰でも閲覧可能なものですが、特殊情報でもあり、一部の金融業者が利用するくらいで、一般の人の目に触れるようなものではありませんでした。
また、膨大な情報量のうえ、紙媒体だったので、情報を整理することは至難の業だったはずです。
それが、インターネット官報の登場で、情報処理能力が格段にアップして、ついに、一般の方が興味本位で身近な自己破産者を調べられるという事態にまでなってしまったということです。
(このサイトについては、当初、運営者も、「もともと国が公表しているデータの表現方法を変えただけなので問題ない」という趣旨の主張を繰り返していましたが、複数の弁護士らが名誉棄損や損害賠償の対象となるという認識を示し、ついには被害者弁護団まで発足されるまでなりました。結果、2019年3月19日時点で、運営者から、「多くの方にご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。」として、現在、サイトは閉鎖されています。政府の個人情報保護委員会からサイトを閉鎖するように行政指導があったとのことです。)
今回、運営者が早々に手仕舞いしたこともあり、この「破産者マップ」をめぐる法的な解釈については、よくわからないままになりそうですが、破産者情報に限らず、公表されているけど、一般にあまり知られていないような情報は他にもいくつもあるはずです。
その中には、差別や偏見を引き起こしたり、犯罪に悪用されたりしかねないような類の情報もありそうです。
情報処理の発達により、これまで埋もれたいたような、「ネガティブ情報」が、白日のもとに晒されるという事態は、今後も発生するかもしれません。
「法律違反でなければなんでもよい」ということではなく、やはり情報発信する側も、ある程度の良識を持って発信していかなければ、今後、ネット上に、どんどん規制がかかり、表現が制限されてゆくようになってしまうかもしれません。