消費者金融の歴史を振り返る

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近年のコンプライアンス重視の風潮からは、とても考えられないことですが、つい数十年前まで消費者金融は、「サラ金」と呼ばれ、暴力的な取り立てが社会問題化していた時代がありました。
かくゆう筆者自身が消費者金融業界に入門した、1990年代前半頃も、その荒っぽい雰囲気のなごりはまだまだ残っていました。
では、消費者金融は現在の形になるまで、どのような経緯をたどってきたのでしょうか。 今回は、消費者金融の歴史を振り返ってみたいと思います。

ライター
半世紀近くの消費者金融業界の「栄枯盛衰」をまとめてみました。紆余曲折を経ながらも良い方向に向かっていると思います。

70年代~80年代初頭

1970年代から80年代初頭にかけての消費者金融業界は、過酷な取り立てで自殺者が出るなど、いわゆる「サラ金問題」真っ只中の時代でした。
このころの上限金利はなんと109.5%、取り立て行為に関する法律上の制限もなく、実際の現場では、まるでテレビドラマのような暴力的な取り立て横行していたようです。

筆者自身、この時代に勤務経験があるわけではありませんが、中には当時の取り立てをまるで自分の「武勇伝」のように語る非常識な先輩もいました。
当時、どのぐらいのレベルの取り立てが行われていたのかといえば、イマドキの常識では信じられないかもしれませんが、例えば、

・深夜に取り立てにいく
・大声で怒鳴る
・玄関ドアに「はり紙」を貼る
・窓ガラスを割る
・机やいすを蹴っ飛ばす

などの取り立ては日常茶飯事だったようです。

もちろん、社員は、ダブルのスーツに、髭、パンチパーマなど、古典的な「金融屋」の出で立ちです。
(尚、筆者が入社した90年代前半にも、このころの名残りで、店舗には、護身用(脅迫用)の「木刀」なんかが置いてありました。)

1983年(昭和58年)の貸金業規制法

そのような「サラ金問題」を受けて、1983年(昭和58年)には、ついに、「貸金業の規制等に関する法律(貸金業規制法)」が成立して、それまで届出制であった貸金業を登録制とし、「取立規制」「書面交付義務」など、規制が設けられるようになりました。

また、金利についても、当時109.5%であった出資法上限金利を段階的に40.004%まで引き下げることになりました。

この法律の施行によって、消費者金融に一定の規制がかかったことは事実ですが、まだまだ建前上のことと捉えている業者も多く、実際の取り立て現場では、程度こそ弱まったものの、相変わらず過酷な取り立てが行われることも多かったようです。

この時点では、世間での消費者金融に対するイメージは、一部の生活困窮者が最後の砦として利用する手段という意味合いが強く、広く一般的利用者がいたわけではありません。 言い換えれば、「貸す側も、借りる側も、普通でない、特殊な人達」と見られていたということです。
そのため、当局に、本気で悪質業者を徹底的に取り締まるという意志があったかどうかは疑問です。

無人契約機の大ブーム

前述したように、ここまでの段階で、消費者金融は、一部の生活困窮者が利用する特殊な手段でしかありませんでした。
しかし、90年代前半に、消費者金融を一気にメジャーな存在にした、ムーブメントが起こりました。

1993年(平成5年)に、大手消費者金融のアコムが無人契約機の「むじんくん」を導入したことをきっかけに、各社広まった、「無人機契約機ブーム」です。

この無人機ブームをきっかけに、消費者金融は、徐々に一般の人にも広く利用が認知されるようになっていき、拡大路線をとるようになっていきました。

無人契約機に親しみやすい名前を付けて、テレビCMも行うようになり(アイフルのチワワなど有名です)、このころより大手消費者金融の方針は、カスタマーサービス重視に変わってきました。
実際、大手を中心に、各社がしのぎを削り、「即日融資」や「無利息サービス」など、顧客へのサービスも充実したものになっていきました。

しかし、ハイリスク層に貸出しをする中小業者に関しては、まだまだ、強面(コワモテ)の業者もありましたし、大手でも裏の回収部門では強引な取り立てが行われることもありました。

2000年(平成12年)の金利引き下げがもたらした結果

このように、ある種、「日陰の商売」だった消費者金融は、「日の当たる世界」に進出してきたわけですが、「日の当たる世界」では、営業面でのプラスの反響が大きい反面、ネガティブな面も大きな反響となってかえってきます。

すなわち、これまでのように、多少の違反行為を「なあなあ」で済ましてもらうことは出来なくなってきたということです。
まして社会問題になるような行為は絶対に許されません。
おのずと、消費者金融を取り巻く規制は強化される方向になっていきました。

そのような中、2000年(平成12年)6月に上限金利引き下げが行われるわけですが、これが、40.004%から一気に29.20%までの大幅な引き下げとりました。
もちろん、先に説明したように、金利は109.5%から段階的に見直しされることは決まっていましたが、業界内でも、「金利は据え置き」という甘い期待があったのも事実です。

この大幅な金利の引き下げを受けて、各消費者金融が採用した方策は、「利益を下げないために貸出しを強化する」という安易なものでした。
はっきり言えば、「過剰貸付け」です。
このような過剰貸付けは、自己破産の増加を招き、それを補うためにも、さらなる過剰貸付けを行うといった、「負の連鎖」を招くことになってしまいました。

またこの頃に、商工ローンの日栄や、大手消費者金融のアイフルの社員による、「目ん玉や腎臓売って金作れ!」といった暴力的な取り立てが、立て続けに社会問題化しました。

その結果として、2003年(平成15年)8月には「ヤミ金融対策法」として、違反に関する罰則が大幅に強化され、貸金業務取扱主任者制度が創設されるなどの資金需要者保護のための改正が行われました。

また、2006年(平成18年)には、最高裁判決などにおいて資金需要者を保護する方向での判決も相次いだことや、消費者金融業界の業容拡大を受けて、貸金業規制法は大幅な改正が行われました。
この改正では、利息制限法や出資法についての改正も行われ、2010年(平成22年)6月18日の改正貸金業法完全施行まで4段階に分けて、実施されることとなりました。

過払い金返還請求の一大ブーム

さらに2006年(平成18年)に、「過払い金」を認める最高裁判決が出て以降、過払い金返還の一大ブームが巻き起こりました。
もちろん、この判決以前からも、過払い金返還の主張をする弁護士もいましたが、この判決がお墨付きを与えることとなり、過払い金返還請求は、債務整理の基本スタイルとなりました。

その返還額は、2008年のピーク時には、なんと1兆円にも上り、消費者金融業者は大打撃をくらうことになりました。

そのような中、弁護士、司法書士事務所の中には、過払い金返還請求に特化した事務所も出現し、「払い過ぎた利息は取り戻せます」をキャッチフレーズに、テレビCMなどで大々的に宣伝をして、顧客を煽るようになりました。

テレビCMでは、消費者金融のCMよりも、弁護士、司法書士事務所のCMが多くなり、電車内の広告でも、同じ車両に、消費者金融の広告と弁護士事務所の広告が隣り合わせで掲載されているという、なんとも滑稽なことも発生するようになってしまいました。

改正貸金業法施行後

段階的な貸金業法の改正と、過払い金返還請求によって、大手消費者金融の大多数は銀行傘下となり、資金力の乏しい中小零細会社の多くは、淘汰されることになってしまいました。
結果、業界の様相は以下のように大きく変わることとなりました。

①銀行カードローンの栄枯盛衰

減少した消費者金融に代わる新たな受け皿として、にわかに「銀行カードローン」の活躍が目立ってきたのも改正貸金業法施行前後の時期からです。
銀行カードローンは、消費者金融のように、年収の3分の1を超える貸付け制限(総量規制)もなく、右肩上がりで成長を続け、2016年3月には、ついに消費者金融の融資残高を上回るまでになりました。
しかしその銀行カードローンも、近年、「過剰融資」が問題視されるようになり、現在、貸出しに関しては自粛ムードです。
(参考記事:銀行カードローンが不良債権増加!中小消費者金融への影響は!

②貸金業界のサービスは低下した

改正貸金業法や、過払い金返還の問題で、大多数の大手は銀行傘下となり、準大手の位置づけだった会社も、ほとんどが廃業に追い込まれることになりました。
その結果、業界に残ったのは、大手と一部の零細企業だけとなりました。
そのため業界のサービスの質は各段に低下しました。
また、規制の強化と利便性は相反する面もあります。
改正貸金業法による規制強化によって、より厳格な返済能力調査が義務付けられたため、それまでの“手軽で簡単”という方向への進歩は、一旦、断ち切られてしまいました。

③自己破産や債務整理をした方が審査対象になった

改正貸金業法施行により、総量規制が導入され、原則、年収の3分の1を超える貸付けはできなくなってしまいました。
このため、かつてのように多重債務者への融資が出来なくなったわけですが、そのような中、中小消費者金融を中心に、苦肉の策として生み出されたのが、過去に自己破産や債務整理をした方を審査対象とするというものでした。
しかし、まさに「瓢箪から駒」で、この融資方法は大正解だったようで、現在、ほとんどの中小消費者金融が採用しています。

現在は中小業者もソフト路線が主流

このような歴史を経て、乱暴な業者のほとんどは淘汰され、現在、生き残っている業者は、かなり「行儀のよい会社」ばかりです。

改正貸金業施行前後で、中小消費者金融会社の現場の空気も明らかに変わっています。
それ以前はなんとなく、顧客への督促で多少、口調がきつくなることは黙認されていましたが、現在はそのようなことが許されない空気になっています。

また、利用顧客も総量規制の影響で極端な多重債務者は利用できなくなり、トラブルを起こしやすい顧客の絶対数も減少しました。
結果、以前と比較して、大手はもちろん、中小消費者金融もソフトな対応で営業するようになりました。

     審査が通る中小消費者金融

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