ちょっとだけ教えよう、プロの債務整理交渉術
世の中には、本音と建前とがございます。
消費者金融には、「資金需要者等(お客)の利益の保護を図る」という大いなる建前がございますが、「自社の利益を死守する」というのも、また、まごうことなき、本音なのでございます。
否、自社の利益を守ることができなれなければ、資金需要者の利益など到底保護することなどできないというのが、実戦的な考えなのであります。
このことが、より顕著にあらわれるのは、お客の代理人である弁護士、司法書士等と消費者金融が債務整理の交渉をするときです。
(彼らは間違いなく依頼者である、「お客の利益の保護を図る」ことを最優先に交渉してきます。)
かくいう私も現役時代は、例に漏れず、会社の利益を死守すべく、あの手この手を駆使してお客の代理人弁護士、司法書士等と交渉にあたっていたものでありました。
ここでは、そんな私の経験をベースに、消費者金融の実戦的な債務整理交渉術をちょっとだけ教えていきたいと思います。
取引履歴の開示方法を工夫せよ!
弁護士、司法書士等が債務整理を受任した場合、消費者金融は、そのお客が、いついくら借りて、いついくら返済をしたのかと、取引履歴を明らかにするよう開示請求をされます。
そして、これを消費者金融が拒否することはできません。
(この場合、開示しなければならない取引履歴は、消費者金融の帳簿書類の備付け義務が、完済後10年なので、過去10年以内に完済した分を含めて全部になります。)
弁護士等が何のためにこのようなことをするかといえば、改正貸金業法完全施行前(2010年6月17日以前)の取引であれば、グレーゾーン金利で取引していた可能性があるので、これを利息制限法の金利に全て引き直し計算をして減額を図るというわけです。
(参考記事:債務整理ってなに?)
そして、再計算の結果、払い過ぎていたことが発覚すれば、返還を求められることになります。(過払い金返還請求)
このように、過去の取引にグレーゾーン金利での取引があった場合、お客にとってはメリットであっても、消費者金融にとっては、これまでの利益を吐き出すことになり兼ねない、ゆゆしき事態なのであります。
そのため消費者金融としては、なんだかんだと理由を付けて、取引履歴を小分けにして開示することが基本になります。
たとえば、まずは、現在契約している分だけを開示して、それ以前の取引は調査中としておきます。
このようにしておけば、開示を拒否しているわけでもなく、あわよくば、現在契約している内容だけで和解できるかもしれないからです。
過払い交渉はのらりくらり!?
前項でも触れましたが、消費者金融にとって、引き直し計算の結果、過払い金が発生している場合、慌てて取引履歴を開示することに何のメリットもありません。
最終的には、全てを開示するにしても、できる限り時間をかけることが肝要です。
私の経験では、現在の契約分を開示するのに、約1ヶ月間(場合によってはそれ以上)、その前の契約分を開示するのに、もう1ヶ月間ほどはかけていました。
先方が何も言ってこなければ、何か言ってくるまで放置するぐらいで丁度いいといった具合です。
そして、全て開示した後も、場合によっては、「支払いはなんとかしたいのですが、こちらも経営上、厳しいので、支払い額は過払い金の2割、元金据え置で3年分割、返済開始は1年後からでお願いします。」ぐらいのことは平気で言わなければなりません。
流石にこの条件で和解することは困難でも、先方から譲歩を引き出しやすくなります。
しかし、あまりにのらりくらりやっていると、弁護士等から、訴訟をおこされ、強制執行をかけられる可能性もでてきます。
まあ、そのような場合も、慌てず騒がず、速やかに預金や金庫から資金を移動し、店に執行官が来れば、その都度、1万円程度を渡して、退散させるぐらいのことは、シミュレーションしておくことが必要です。
あえて細かな金額にもこだわれ!
弁護士、司法書士との交渉は、一人のお客だけとは限りません。
むしろ、複数のお客が同じ事務所で介入していることが普通です。
通常、弁護士、司法書士との和解基準は、弁護士会などの基準に基づいて、全債権者平等という原則がありますが、実際は、そうでもありません。
やはり、細かい金額にまでこだわって、最後まで、やかましい業者に対しては、弁護士、司法書士等も譲歩してくる可能性が高くなります。
そして、有利な条件で和解をすれば、それが前例になり、次回からの和解交渉が格段にしやすくなるのです。
逆に、妥協した内容で和解をしてしまえば、それが前例となってしまい、次回からの交渉で苦労することになるのです。
そのため、和解をする場合は、細かな金額にもこだわって慎重に行うことが重要です。
「ここの会社は、うるさくて面倒だな」と相手に思わせることが肝要です。
弁護士、司法書士とはウィンウィンな関係を
前述のように、弁護士、司法書士等とは、時に互いの利益を守るために、タフな交渉をすることはあっても、できる限り、良い信頼関係を築いておくことは重要です。
交渉するときも、最終的には、相手の面目も立つようにすべきです。
たとえ、こちらに理があっても、相手の面子を潰すような提示をするのは、原則、御法度なのです。
もちろん、弁護士、司法書士等がお客の利益を無視して消費者金融と結託しているわけではありませんが、このように普段から友好的な信頼関係を築いておけば、相手から無理難題を押し付けられることはおのずとなくなるものなのです。
消費者金融社員としての心得
いかがでしたでしょうか。
今回、あえて露悪的な表現をした箇所もありますが、時代も変わってきているので、弁護士、司法書士等に対して、ここまで露骨な駆け引きをする会社も少なくなってきているかもしれません。
ただ、中小消費者金融の債務整理に対する感覚は多少なりともご理解頂けたのではないでしょうか。
最後に、私が消費者金融に入門した時の店長の名言を記しておきます。
「いいか、あいつ等(弁護士、司法書士等)は法律のスペシャリストだ。だから法律全般のことでは、お前等が勝てるわけねえんだ。だけど、こと貸金業に関することだけは、たとえ相手が弁護士だろうと遅れをとるんじゃねえぞ。」
消費者金融の社員は、まさにこの気概を持って、今日も法律のスペシャリストと渡り合っているのです。