本当にいた名物お客(ひたすら謝り倒す女)
筆者はかつて消費者金融で勤務していたことがありますが、長いこと「債権回収」をやっていると、延滞客との「名勝負?」の一つや二つはあるものです。
今回は、その中から、思い出深い、名物お客の話をしてみたいと思います。
専業主婦の借金が10件400万円の時代があった
現在の法律では、消費者金融が1人のお客に融資出来る上限は、「総量規制」によって年収の3分の1までとされていますが、私が回収業務を担当していた当時(90年代後半~2000年代前半)は、そのようなルールはなく、各消費者金融は、貸したい放題、お客さんも借りたい放題の状態でした。
そして気づけば、無職無収入の一専業主婦に対して、10件以上の消費者金融が貸し込んで、借金は合計で400万円超なんてことも珍しいことではありませんでした。
いまにして思えば、「過剰融資」を超えた「異常融資」です。
しかし多くの消費者金融がこのような貸出しを行っていた時代があったのは事実です。
もちろんそんな状況の人は、早晩、返済に行き詰ることになります。
そして、返済が滞れば、当然、督促をかけるわけですが、当時もいまほどではないにしろ、「取り立て行為」には規制があり、一応、乱暴な取り立ては禁止されていました。
ただ、乱暴ではなくても、毎日毎日、10社以上の業者から、電話が入れかわり立ちかわり入ったり、訪問を受けたりするお客は、たまったものではありません。
また当時は、いまのように、大々的に債務整理の広告をしている弁護士事務所もなかったので、返済に困っても、弁護士に相談するよりも、居留守をつかったり、逃亡したりしてしまう人の方が多い時代でした。
ただ、人間、「適応能力」というのがありますから、だんだんと、延滞客の中には、したたかに、「かわし方」を身につけてくる人もいたものでした。
ひたすら謝り倒す女
そんな延滞客の中でも特に手ごわかったのは、何をやっても何を聞いても、ただひたすらに謝り倒す、通称「ごめんなさいしか言わない女」でした。
誤られることのどこが手ごわいかと思う方もいるかもしれませんが、正直、こんな手ごわい相手はなかなかおりません。
その人とのやり取りは、具体的には以下のような感じです。
筆者:「もしもし、〇〇さんですか。××金融ですけど、返済が遅れていますよ。」
女:「ごめんなさい。」
筆者:「いつ返済できますか?」
女:「ごめんなさい。」
筆者:「ごめんなさいっていうのは、わかりましたから、いつ返済できますか?それとも目処が立たないんですか?」
女:「ごめんなさい。」
筆者:「だから、ごめんなさいっていうのはもう結構です。返済する気がないんですか。」
女:「ごめんなさい。」
筆者:「・・・・」
このように全ての返答を「ごめんなさい」の一言だけで強引に押し通してくるのです。
この攻撃は単純ですが、効果てきめんです。
何せ、相手に何を言っても、全く響かず、話をする土俵に立つことすらできないので、どうすることも出来ません。
その人も、そんなことならいっそのこと電話に出なければいいのに、なぜか律儀に電話にだけはでるのです。
そんなの裁判でもすれば、いいじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、消費者金融は、数多くの延滞顧客、全てに対しての訴訟は、費用対効果の面からもやらないのです。
ついに最後の勝負!
私は、自分で言うのもなんですが、結構、しつこい方なので、意地でも、話をさせてやろうとあの手この手を考えました。
ある時は、「放置しておいてもしょうがないので、一緒に返済計画を立てましょう。」と協力的な姿勢で対応してみたり、またある時は、「奥さんも大変だったんですね。」と情に訴えかけてみたり、時には「このままだと、訴訟を起こさざるを得ない!」と毅然とした態度を示してみたりと、様々に言い回しを変えてチャレンジしましたが、返事は、きまって「ごめんなさい」でラチがあきません。
そんなことがしばらく続いた中、私は、練りに練った究極の作戦で、これが最後の勝負と心に決めて、その延滞客に挑むことにしました。
そしていつものごとく、「ごめんなさい」攻撃を仕掛けてくる女に対して、待ってましたとばかりに私はこう言ってやりました。
私:「えっ、よく聞こえなかったので、もう一度お願いします。」
女「ごめんなさい。」
私:「えっ、よく聞こえなかったので、もう一度お願いします。」
女「ごめんなさい。」
・・・
この不毛なやり取りが、かれこれ約10分間続いた後、ついに心が折れた私は、二度とその人に電話をしなくなってしまいました。
おそらく彼女はこの調子で、10件以上あった借金を堂々踏み倒したに違いありません。 その後、その女の人がどうなったのかは、いまもってわかっておりません。