元消費者金融幹部Nさんの告白(雷雲編)

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この記事は、ある中小消費者金融の元幹部の証言を記録したものです。
長年、消費者金融の栄枯盛衰を見てきた方のリアルな声とともに、業界を振り返っていきましょう。
今回のお話は平成10年ごろから始まります。

※この記事は『元消費者金融幹部Nさんの告白(青春編)』からの続きです。

平成12年の金利引き下げ

かつて消費者金融は「お金に行き詰った人がやむを得ず借金するところ」といった、暗くネガティブな印象が強くありました。
しかし大手のさわやかなテレビCMやユニークなネーミングの無人契約機になどよって、ネガティブな印象は徐々に払拭されるようになりました。

平成10年ごろの時期、消費者金融業界は大手を中心に、「お金に行き詰った人」でなく「普通の人」が利用できる業界を目指していたのです。

Nさんの会社でも、いつのまにか大手にならい、顧客サービスに重点をおいて拡大路線を採ってゆこうという考えが主流を占めていました。

しかしNさんの会社のような中堅どころでは、大手で利用出来なくなった人が申込みをしてくるので、現実の客層は、大手が描く理想とは必ずしも合致しません。

「どいつもこいつも足もと見失いやがって、きっちり相手見て、金を貸すのが金貸しだろうが。」

こんなNさんの考えは、もう古いのかもしれません。

それでもこの時期、Nさんの会社は、十分な利益を出していました。
以前より下がったとはいえ、40.004%という高金利がそれを支えていたからです。

しかし平成12年6月に、さらなる金利引き下げが実施され、上限金利はそれまでの40.004%から29.2%に一気に引き下げられることになりました。

「こりゃ、とんでもないことになっちまった!」

金利は段階的に見直しされていくので、段々下げられることは、もちろんわかっていました。しかし、“金利は据え置き“という淡い期待を持っていたのかもしれません。

金利が今までよりも3割以上も下がったため、単純計算で利益も3割以上は下がることになります。

「利益を下げないために、もっともっと貸すしかない!」

Nさんの会社は営業戦略として貸出しをさらに強化することになりました。

Nさんの会社に限らず、平成12年の金利引き下げは多くの消費者金融の貸出し基準を甘くすることにつながりました。
複数の会社が貸し込みをした結果、明らかな過剰貸付けが目立つようになってきたのです。

過剰貸付けが自己破産の増加を招き、それを補うために、また新たな貸出しをする。

「これじゃ、どっちが自転車操業かわからねえや。」

仮に、Nさんの会社が少額しか貸さなくても、数か月後には、他業者の貸し込みによって、その人の借金は数倍に膨れ上がってしまっている。

そのような中、大手業者の「腎臓や目ん玉、売ってこい!」といった、暴力的な取り立ての音声テープが報道され、世間の空気は再び、「消費者金融=悪」といったものになってしまいました。

認定司法書士の登場

平成12年以降も「消費者金融=悪」というネガティブなイメージを払拭すべく、大手では、テレビCMによるイメージ戦略を採用していました。
特にアイフルのチワワのCMなどは大人気で、業界の好感度UPに確実に貢献していました。

しかし、そんなCMの人気とは裏腹に、消費者金融の過剰な貸付けによる多重債務問題はどんどん社会問題化してゆきました。
深刻化する多重債務問題に対して、平成12年には特定調停法が施行されました。

また、平成14年には司法書士法が改正され、簡裁代理権を持つ認定司法書士が出現するようになりました。この認定司法書士制度によって、司法書士による債務整理が一般的になり、現在に至っています。

そのような中、個人の自己破産の申立て件数は増加し続け、平成15年には242,000件以上となりピークを迎えます。

一連の多重債務者対策によって、債務整理が消費者金融業者にとって徐々に厳しい内容になってきたことは間違いありません。
特に、認定司法書士の活躍は大きかったと思われます。

そのころNさんはキャリア的にも会社の幹部クラスでした。

「昔は司法書士が介入しても、権限がないから大したことなかったんだよ。
しかし奴らよく勉強してるよ。だけど手加減ってものを知らない奴が増えてきたよな。」

Nさんが言うには、昔から債務整理で介入する弁護士はいましたが、だいたいの落としどころを見つけて、和解をするのもそれほど困難なことではなかったそうです。

それが、消費者金融を徹底的に追及するタイプの弁護士、司法書士が増えてきて、いつまでも和解ができず凍結してしまうようなケースも増えてきました。

凍結させても、この先、業界にとって有利な事例がでてくる見込みはありません。逆に不利な事例がでてくる可能性が大きいとも言えます。
それに時効の問題もあります。

そのようなことを加味して不本意な内容でも和解をすることも多かったようです。

「それでもまだましだったよ。あれが始まるまではよ。」

平成18年の最高裁判決を機に、消費者金融業界には、本当の意味での激震が走ることになります。

過払い金返還ブームと改正貸金業法の施行

平成18年に過払い金が認められる最高裁判決が出てからは、時代は消費者金融の過払い金返還一大ブームに入ります。

もちろんこの判決以前から、このような主張をする弁護士もいましたが、この判決がお墨付きを与えたため、過払い金返還は債務整理の基本的なスタイルになってしまいました。

また、若くて野心のある弁護士、司法書士の中には、消費者金融の債務整理をひとつのビジネスモデルと捉えて、『払いすぎた利息は取り戻せます』をキャッチフレーズに、多重債務者を集客して大きな利益をあげる者も出てきました。

テレビCMも、消費者金融のCMよりも過払い金返還を宣伝する弁護士、司法書士事務所の宣伝の方が多くなるという、おかしな状態になりました。

もともと消費者金融業界は、利息制限法と出資法上限金利の間のいわゆる「グレーゾーン金利」と呼ばれる金利で営業するビジネスモデルです。
このビジネスモデルが法解釈によって完全に覆ってしまったということです。
これは考えてみれば、かなり無茶な話です。

グレーゾーンで営業している消費者金融は法解釈上、「違法の営業をしている業者」ということになってしまいました。
企業が過去に得た利益にはそれ相応の税金も支払っているはずです。
その過去に得た利益を遡って返還しても税金はかえってくるわけではありません。

また、平成18年には、改正貸金業法が成立し、平成22年6月18日までに4段階に分けて、実施されることになりました。
改正貸金業法では、「上限金利の引き下げ」と「総量規制の導入」による、年収の3分の1を超える貸出し制限が大きなポイントになりました。

「過払い返還」と「改正貸金業法」によって、消費者金融業界は大きな過渡期を迎えていました。

「改正貸金業法が4段階に分けて施行されたのは、つまり“ついていけない業者を段階的に淘汰してゆく”ということだな」

Nさんのその予言どおりに、多くの中小貸金業者は淘汰されてゆくことになります。
また、大手の多くはメガバンクの参加に入りました。

「最初から、消費者金融の独壇場だった個人向け融資を、銀行にスライドする絵が描かれてたってことだな。ただ、消費者金融業界も成長、成長でやり過ぎちまったんだよな。
でも、最近じゃその、銀行の過剰貸付けが問題になってるらしいな。
あのころは消費者金融が魔女狩りの標的にされただけで、いつまでも成長、成長で拡大路線を採り続ける限りどこかで無理が来るんだよ。
結局、消費者金融だろうが銀行だろうがどこがやったって同じことなんだ。」

「経済重視で、公害なんかおこしてきたのも超大手企業だったじゃねえか、どれも一緒だよ。」

そんな風に語るNさん。

これからの業界は、低成長の時代にあった戦略も必要ということでしょうか。

Nさんの会社がその後どうなって、今Nさんが何をやっているのかは、Nさんとの約束で、ここには記載できません。
でもNさんから最後に聞いた言葉は印象的でした。

「世の中いろんな商売があるけど、博打、金貸し、売春は絶対に無くならないよ、人間の本性だからな!」

     審査が通る中小消費者金融

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