元消費者金融幹部Nさんの告白(青春編)
この記事は、ある中小消費者金融の元幹部の証言を記録したものです。
平成22年の改正貸金業法施行によって、多くの中小消費者金融が廃業に追い込まれたことは記憶に新しいところですが、ここまで業界を締め付ける「改正貸金業法」とは何だったのでしょうか。
長年、消費者金融業界の栄枯盛衰を見てきた方のリアルな声とともに振り返ってみたいと思います。
時はサラ金時代全盛期
Nさん(仮称)が、この業界に入ったのは今から30年以上も前の1980年代前半のことでした。
高校を卒業して、職を転々としていたころ、知り合いの紹介で、ある消費者金融に入社をしました。
その当時、消費者金融は「サラ金」と呼ばれ、高金利と過度な取り立てで恐れられていた時代です。
働いている従業員も強面(コワモテ)が多く、派手なスーツにパンチパーマ、髭は当たり前の世界です。
ただNさんも大概やんちゃだったようなので、そこで働くことにはそれほど抵抗はなかったようです。
サラ金の男性社員にとって「取り立て」は重要な任務です。
この「取り立て」に躊躇するようでは、サラ金の社員は務まりません。
かく言うNさんも、ろくな研修もされないまま、入社初日から取り立ての現場に駆り出され、経験もないのに即戦力として仕事をするようになっていったとのことでした。
誰も回収できなかった債権を回収した話や、チンピラのような相手との交渉で上手く立ち回った話など、かつての武勇伝を語るNさんは、少年のように無邪気です。
当時の上限金利は、なんと年率で109.5%!
業界を規制する法律もなく、返済を怠った客への対応は、かなり酷かったようです。
直接的な暴力こそはなかったものの、例えば、
・玄関に「金返せ!」と張り紙をする。
・大声で恫喝する。
・知人宅を訪ねさせて金策に付いて回る
など、今では考えられないような取り立てが当たり前のように行われていたようです。
ただそのような取り立てに対してNさんはあまり後ろめたさを感じなかったようです。
「やっぱり、借りたものを返さない方が悪いんじゃないのか!」
Nさんの理屈は単純明快です。
「それによ、客の方だって、あなた方が思っている以上にしたたかだったよ。」
取り立てに行って、客に身の上話を聞かされて同情してしまって、逆に、ポケットマネーを置いてきてしまった話など、「したたかな客」にしてやられた話も数多くあるようです。
Nさんの話からは、当時は、良くも悪くも、牧歌的というか大らかな時代だったことが伺えられます。
「だけど、誤解してほしくないのは、今みたいに、会ったこともないような相手にやたらと貸していたわけじゃないぜ。
お金を貸すときは、むやみに借金を増やさないよう、きっちり言い聞かせてから貸したもんだよ。
それでも増やしちまって、返済が遅れるような時は、そりゃあ怒ったりもするよ。
でも、それで立ち直る客も多かったし、感謝されることも多かったんだ。」
確かにNさんの言うことにも一理あるような気もします。
しかし、借金苦での自殺者が多発したり、この時期「サラ金問題」が社会問題化していたことも事実です。
そのような中、昭和58年に業界に激震が走ります。
サラ金規制法~無人機ブーム到来
昭和58年に「貸金業の規制等に関する法律」、通称「サラ金規制法」が成立しました。
背景には、一部業者によって、返済能力を超えた貸付けや、強引な取り立てが行われた結果、自殺や一家離散などの被害が社会問題化していたことがあります。
この規制法の成立によって、それまで届出制であった貸金業は登録制となり、「取り立て規制」「書面交付義務」など、規制が設けられるようになりました。
また、金利についても、当時109.5%であった出資法上限金利を段階的に40.004%まで引き下げることになりました。
「今にして思えば、かなり緩い規制だったけど、金利は下がるし、取り立ても出来なくなるんじゃないかって、当時は大騒ぎだったんだよ。」
とNさんは振り返ります。
「まあ、大騒ぎしたわりには実際、規制法で急に何かが変わったってことはなかったけどね。」
「段階的に厳しくなっていったから、気が付いたら、あれ?前よりもだいぶ厳しくなっちまってるって感じかな。」
「従業員も、おとなしい奴が増えてきたのはあの頃くらいからかなあ。」
それまでの消費者金融は、一目で「金貸し」とわかるような強面(コワモテ)社員が多かったのが、このころから徐々に雰囲気が変わっていったようです。
「金利が下がった分、うちの会社も集計や管理にコンピューターを入れて、効率化を図って、拡大していこうって話になってね。」
段階的な金利の引き下げは、むしろ、業界を拡大路線に導く結果にもつながったようです。
「支店もいくつかできて、融資残高は毎年、右肩上がりの時代だったなあ。」
Nさんの会社も大きな成長期に入っていました。
そんな中、平成5年に大手消費者金融のアコムが無人契約機「むじんくん」を導入したのをきっかけに、大手消費者金融を中心に「無人機ブーム」が到来しました。
テレビでは堂々と消費者金融のCMが流れるようになり、時代は、まさに消費者金融全盛期を迎えつつありました。
「ただ、正直言えば、俺はあのノリには、ちょっと違和感を感じていたんだよなぁ。」
「業界が大きくなるのはいいけれど、俺らみたいな仕事は、あんまり、目立ちすぎちゃいけない気がするんだよなぁ。
なんていうか、しょせんは、路地裏っていうか駅裏の仕事なんだよ。
それがよ、駅前の一等地に堂々と看板出しちゃいけない気もしていたんだ。」
急激に拡大する業界に、従業員の意識やモラルが追い付いていないということでしょうか。
また、業界では、拡大する貸付けに合わせて、自己破産する人の数も急激に増えてゆきました。
その不良債権の穴埋めをするために、延滞者への督促はさらに厳しくなってゆく。
貸し倒れで減少した融資残高の穴埋めをするために、無理な貸出しを行う。
「いつか無理がくるんじゃないか。」
Nさんのそんな思いはやがて現実と化すことになっていきます。
(元消費者金融幹部Nさんの告白(雷雲編)に続く)