取り立て方法の集中講義(電話督促)
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はじめに
世間では中小消費者金融の取り立てというと強面の兄いが、
「借りた金、早よう返さんかい!」
とダミゴ声を張り上げるイメージがいまだに拭いきれていませんが、今のご時世そんな取り立てをしていたら「重要文化財」か「天然記念物」扱いです。
いまどきの回収業務は言うなればもっと「マイルド」かつ「スマート」であります。
思い返せば、このような取り立ての「マイルド化」は1990年代前半に遡ります。
その頃はかつての「サラ金」が「消費者金融」と呼び方も変わり、テレビCMなどで世広く世間にアピールするようになってきた業界の変革期でもあります。
無人契約機の一大ブームがあったのもちょうどこのあたりの頃です。
かくゆう私がこの業界に入門したのもちょうどそのあたりの頃であります。
その頃はまだ旧来型の「武闘派的取り立て」を行う先輩諸氏も多かったのですが、そのような取り立てからの脱却を目指して、我々「新時代」の社員が日夜試行錯誤で新たな取り立て手法を模索していた頃であります。
あえて言えば、いまどきの取り立て技術は、我々「新時代」の社員による努力の結晶そのものなのであります。
今回、そんなかつての「新時代」の社員を代表して、皆さんには特別に「取り立て方法」を講義していきたいと思います。
旧来型の取り立てと比較してはたしてどちらが効果的か一目瞭然でわかるはずです。
尚、この講義は現在、現役で活躍している消費者金融社員だけでなく、消費者金融を利用している、お客側の方にも有効です。
えっ、金融屋でもないのに取り立て方法なんか聞いたってしょうがない!?
いえいえ、相手を攻略するには、その文化、風習をよく知ってもらうことが、遠回りに見えても一番の近道です。
この講義を聞くことで、これから消費者金融と渡り合う皆さんにとっても非常に有益な知識が身につくことを確信しております。
訪問集金から脱却せよ!
旧来型の取り立ては「訪問集金」が一般的でした。
もちろん電話もしていましたが、連絡がつかなくなると、すぐに現地訪問に出向いたものでした。
しかし、はっきり言って訪問集金は効率が悪い。
訪問しても相手が不在のことが多く、督促状を置いてくるだけの結果に終わることがほとんどだからです。
それでも旧来型の取り立てが訪問集金に頼っていたのは、「実際に自宅まで借金取りが来た」という心理的プレッシャーをかけたいだけなのです。
このような狙いは、「借金取り≒ヤクザ」といったイメージを逆手にとったもので、コンプライアンス重視のいまどきの消費者金融がこれにたよって取り立てをするのは無理があります。
そもそも心理的プレッシャーをかけたいだけであれば訪問などしなくても可能です。
そのため、よほど近場であれば別ですが、新世代の取り立て方法には「訪問集金」という概念はありません。
督促はあくまで、電話、書面を中心に行います。
訪問集金なんかしなくても、これだけで充分回収することは可能です。
電話で延滞者と連絡が取れた場合
まずは電話での取り立て方法から解説していきます。
内容は簡単で携帯電話、自宅固定電話に直接電話をかけることです。
本来、これを1日に3回ほど繰り返すことが望ましいのですが、忙しい皆さんはなかなかそこまで手が回らないことも多いでしょう。
そのため、1回の電話でも確実に「ツメアト」を残しておくために、原則、番号通知と留守番電話への伝言は行います。
(もちろんケースに応じてあえて行わないこともあります。)
留守番電話への伝言は消費者金融会社の社名で結構ですが、担当の個人名で行うというルールを設けている会社もあります。
この辺りは各会社のルールに従って下さい。
次は実際、お客と電話で連絡が取れた場合の対応です。
①絶対に怒鳴ってはいけない!
旧来型の取り立て行為は、相手と連絡が取れたらいきなり怒鳴りつけるのが定番でした。
それは「怖い会社=返済優先順位が高い」という方程式を頑なに信じていたからです。
この考えもあながち間違っているわけでもありませんが、これだけコンプライアンスが騒がれる世の中、どこでテープが回っているかもしれず、このような取り立て方法はもはやリスクでしかありません。
賢明な皆さんは、相手がどんな長期延滞客であっても怒ってはいけません。
拍子抜けするくらい紳士的な対応をすることです。
土台、正規登録業者が威圧感だけで相手を屈服させるのは無理があります。
反社会的勢力でもない我々は、相手がどんなに返済をしていなくても、暴力に訴えることはもちろん、身柄をさらってくる(拉致監禁)ことも出来ないのです。
そのため怒る場合はどうしても中途半端になってしまいます。
中途半端に攻撃をしかければ相手も反撃してきます。
遅れているのは悪いとわかっていても、そこまで罵倒されたら逆ギレするしかないということです。
②情報収集を心掛けろ!
相手を怒鳴らないということは、別に「太陽政策」をとれということではありません。
「北風」を吹かすにしても、今の時代「威圧」だけでは限界があるということです。
現代の「北風」である法的や強制執行をするには情報収集が必要です。
賢明な皆さんは、怒らないかわりにきちんと相手の情報収集をすることに努めて下さい。
特に、長期延滞者の場合は、必ず、連絡先、住所、勤務先に変更がないかチェックしておきましょう。
この確認をしないまま、いきなり強引な請求をして、また逃げられてしまったら元も子もありません。
ここで勤務先を確認しておけば、相手は以後、逃げにくくなりますし、交渉が決裂したら、この情報収集が後に訴訟を起こしたり、強制執行したりする際に必ず役立ちます。
まずは冷静に、落ち着いて、情報収集に努めましょう。
「会社のデータ登録を更新しておきたいので状況を再確認させてください。」と自然に聞けば、相手も警戒心を持つことはないでしょう。
③次回につなぐことを心掛けろ!
これまで返済を放置していた相手であっても、頭ごなしの説教はするべきではありません。
先方がこれまで返済を放置せざるを得なかった事情にも思いをはせ、相手を慮った対応をして下さい。
「〇〇さん、今までどうしていたんですか。心配していたんですよ。」
「これまで返済を放置していたのは、よほどの事情があったんでしょう。」
なんて、声がかけることができれば満点です。
そして話の最後には、
「今後も相談に乗るから、何かあれば必ず連絡だけはして下さいね。」
と一声かけることも忘れないで下さい。
怒鳴って説教するだけの対応と、どちらが、次回に連絡がつながるかは言うまでもないでしょう。
④少額でもいいので返済を再開させろ!
相手が長期滞納者だった場合、請求は、原則、全額一括とするのが基本です。
しかし、よほど運が良くなければ、一括では回収出来ないのもまた事実です。
そもそも資力に乏しいからこそ延滞しているのであって、まともに返済出来るなら、最初から延滞なんかしていません。
そのため無理に一括にこだわらず、まずは少額でもいいので返済を再開させることに努めて下さい。
これは、返済意欲を持たせるためもありますが、「時効」の問題も大きく関係してきます。
消費者金融の借入れの時効は最終返済期日から5年です。
このため、少額でも返済があれば、時効はそこから5年間の振り出しに戻ることになります。
また、仮に、5年以上経過していても、返済があれば時効は中断され、同じく時効は振り出しに戻ることになります。
このように、実現する見込みのない一括返済にこだわるよりも、たとえ少額でも、返済を再開させる方が、現実的かつメリットが高いのです。
家族が電話に出た場合の対応
自宅固定電話に電話した際、お客本人ではなく、家族が電話に出ることがあります。
ここではそのようなケースの対処方法を解説していきます。
①家族の証言はあてにならない!?
返済の催促で、お客の自宅に電話すると家族が出て「もうここには住んでいない」などと言われてしまうことがあります。
それだけで行方不明扱いにしてしまう回収担当もいますが、それは早とちりというものです。
このような家族の証言はあてにならないことも多いので注意してください。
実際はセールスなどの迷惑電話と勘違いしてそのように言っているだけのことも多いのです。
信憑性の高い証言を引き出すには、ある程度、権威のある名前で電話をすることです。
例えば、私がよくやっていたのは銀行を名乗って在籍をとる方法です。
相手が銀行であれば、適当なウソをつく人は少ないはずです。
もちろん、この方法はバレると問題になるのでご注意ください。
②伝言の仕方にはコツがある!
借入れのことを本人以外の者に明らかにすることは貸金業法で禁止されているので、督促電話に家族が出た時は、社名を名乗らないことをルールとしている会社がほとんどです。
ただし、本当に社名も名乗らず伝言もせず、電話を切ってしまったら、何の督促にもならず、ただ無駄な作業をしているだけになってしまいます。
相手が長期延滞者であればなおさらです。
ここは法律を守りつつ、存在感を示しておくことが重要です。
そのような時は、わざと家族に不信感をもってもらうように伝言をします。
当方:「〇〇と申しますが△△さんはご在宅ですか?」
家族:「いま、外出しています。」
当方:「今日はお帰りになりますか?何時ごろお帰りですか?」
家族:「失礼ですが、どのようなご関係の方ですか?」
当方:「ご本人以外には詳しくお伝えできません。電話番号を伝えておくので、帰ってきたら連絡するようお伝えください。」
家族:「・・どのような関係の方なんですか?」
当方;「法律上、私からご家族にお伝えすることは出来ませんのでお察しください。確認したければ私ではなく本人に聞いて下さい。電話番号は伝えておきます。」
もちろん伝言するのはあくまで「個人名」でです。
このやり取りなら、こちらから借入れのことは一切明らかにしていませんし、相手を慮って、社名も名乗らず個人名で電話したという大義名分も出来ます。
尚且つ、不信感満載なので、お客が帰宅した際に、家族に問い詰められ伝言は確実に伝わるはずです。
③代払いの申し出は受けておけ!
こちらが、わざわざ不信感を漂わせずとも、何度も電話をしていると家族も、そのうち本人の借金に気づいて、代払いを申し出てくることがあります。
この申し出を受けるか蹴るかは迷う担当者は多いと思います。
後のトラブルを避けるため会社のルールで代払いを受ける条件が定めている会社もあります。
しかし、私の考えは、初期延滞客であればともかく、長期延滞客であれば、先方の気が変わらないうちにとりあえず受けておけというものです。
このような申し出は、私の経験では早い者勝ちだからです。
長期延滞者は重篤な返済不能状態になっていることが多く、他にも複数の借入れがあるケースがほとんどです。
現在、代払いしたいと申し出ている家族も、全ての借金が明らかになった場合、考えが変わってしまう可能性もあります。
後にトラブったら返金すれば良いだけですし、実際そのような事態に陥ることはほとんどありません。
但し、後から関係ない家族に請求をしたと誤解されないよう工夫は必要です。
例えば、「私どもが、ご本人様あてに送ってある書面はご覧になったんですか?」と尋ねて、わざと本人あての督促状を開封するよう仕向ける(誘導する)方法もあります。
そうすれば、こちらが借金のことを家族にバラしたのではなく、本人あてに送った書面を家族が勝手に見て借金のことを知ったという、自然なストーリーが出来上がるわけです。
勤務先への電話方法
一定期間、携帯や自宅固定電話に電話をして連絡が取れなかった場合、勤務先に電話をすることになります。
勤務先に電話する時のポイントは、あまり攻めすぎないことです。
家族に借金がバレるのと、勤務先の同僚に借金がバレるのでは、ダメージが違い過ぎるので、こちらの不手際でバレるということは絶対に避けなければなりません。
そのため社名を名乗ることは絶対にご法度です。
伝言も可能であればしてもよいですが、不自然な雰囲気であれば無理やりしなくても大丈夫です。
あくまで強制執行を踏まえた「在籍確認」程度のイメージで大丈夫です。
また、相手が電話に出ても、ここで会ったが百年目の勢いでそのまま話を続けるのはNGです。
その場では話をせずに、折り返し電話約束をするにとどめましょう。
最近では、個人情報保護の観点から、社員への取次ぎや伝言、在籍確認を一切不可としている会社も増えてきています。
このようなご時世なので、勤務先への電話では無理をしない方が得策です。
最後に
さて、ここまで消費者金融の電話督促について講義を進めてまいりましたが、このように取り立て業務では、単純に見えて意外にも繊細なやり取りを要求されるということがお分かり頂けたと思います。
そう、いまどきの取り立ては、猪突猛進さよりも、「老獪さ」が求められるのであります。
ここまで講義を聞いた皆さんには、これから回収業務を行うにしろ、消費者金融と渡り合うにしろ、十分な知識が付いたと思います。
このうえは、日々の切磋琢磨あるのみです。
それではご清聴ありがとうございました。